2026. 6. 8 「103万円の壁」はもう過去のもの ー 人手不足に悩む経営者が今すぐ知るべき「働き方改革」の盲点

源泉所得税の改正のあらまし(国税庁)
2026. 4月
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/2026kaisei.pdf

「ただでさえ人が足りないのに、また国の制度が変わるのか……」
「今度は一体、何をどう対応すればいいんだ」

そんなため息交じりの声が、多くの経営者のみなさまから聞こえてきそうです。

特に、パートさんやアルバイトさんを多く雇っていらっしゃる経営者の方にとって、長年の悩みの種といえば「103万円の壁」ではないでしょうか。

「優秀なパートさんが、年末になると『壁を超えてしまうのでシフトを減らします』と言って休んでしまう……」という光景は、もはや毎年の風物詩のようになっていましたよね。

実はその「103万円の壁」、すでに過去の数字になっているということをご存じでしょうか?

「えっ?うちのパートさんは、いまだに103万円を気にして働いているよ?」

そう思われた方は、少なくないはずです。

実は、国の仕組みが大きく変わったにもかかわらず、働く側も雇う側も、昔のイメージのまま「なんとなく」働き損を怖がっているケースが非常に多いのです。

これは企業にとっても、働くご本人にとっても、大変もったいない「機会損失」と言わざるを得ません。

今回は、この令和8年の最新ルールをすっきりと整理しながら、経営者のみなさまが人手不足を乗り切るための「大きなヒント」をつかめるよう、お話しいたします。

ぜひ、これからの経営のヒントとして一読してみてください。

そもそも「年収の壁」とは?混同しやすい2つのルール

まず基本のおさらいとして、知っておいていただきたいことがあります。

「年収の壁」と一言で言いますが、実は「税金(所得税)の壁」と「社会保険(年金や健康保険)の壁」という、まったく別の2種類のルールが混ざって語られています。

この2つは、まったく別のルールで動いています。

片方のルールが変わっても、もう片方には一切影響しません。

ここを混同してしまうと話がややこしくなってしまいますので、まずは「税金」と「社会保険」は別物である、と整理しておきましょう。

それでは、それぞれの「現在の姿」を順番に見ていきます。

税金の壁は「103万円」から「136万円」へ大きく引き上げ!

まずは、一番なじみ深かった「税金(所得税)の壁」のお話です。

昔は「年収103万円を超えると本人に所得税がかかり、配偶者の扶養からも外れてしまう」というのが大原則でした。

ところが、国のルールが段階的に引き上げられ、現在(令和8年)はどうなっているかというと、なんと、「136万円の壁」にまで位置が上がっています!

これは非常に大きな変更です。

難しい税金の計算式(基礎控除の引き上げなど)はさておき、経営者として押さえておくべき「結果」は以下の2点です。

  • 年収136万円までは、パートさん本人に所得税がかかりません。
  • 年収136万円までは、配偶者の税金の扶養に入ったまま働けます。

つまり、昔に比べて「33万円分」も多く働いてお給料をもらっても、税金面では一切問題がないということなのです。

なお、毎月のお給料からはまだ古いルールで税金が引かれている場合がありますが、これは今年の12月に行う「年末調整」のタイミングで正しく再計算されます。

払いすぎていた税金はパートさんの元へしっかりと戻ってきますので、もしスタッフから不安の声が出たら、「12月にちゃんと精算されて戻ってくるから大丈夫だよ」と、社長さんの口から優しく教えてあげてくださいね。

もう1つの重要テーマ:「社会保険の壁」は「時間」だけを見る時代へ

税金の壁が136万円に上がって「それなら、みんなたくさん働けるね!」と、手放しで喜べないのが、もう1つのルールである「社会保険の壁」です。

社会保険(健康保険や厚生年金に自分で加入する仕組み)の壁は、働く「時間」と「会社の規模」によって決まります。

これまでは従業員数が51人以上の企業が主な対象でしたが、今後は数年をかけて、すべての会社・お店(個人事業も含みます)へ、段階的に拡大していくことが決まっています。

今後のスケジュールは以下の通りです。

  • 51人以上の企業: すでに適用されています。
  • 36人〜50人の企業: 2027年(令和9年)10月から適用。
  • 21人〜35人の企業: 2029年(令和11年)10月から適用。
  • 11人〜20人の企業: 2032年(令和14年)10月から適用。
  • 10人以下の企業: 2035年(令和17年)10月から適用。

2026年10月、金額の基準(8万8,000円)が撤廃されます!

これまで社会保険の加入基準には、「週20時間以上」という時間のルールと並んで、「月額のお給料が8万8,000円以上」という金額のルールもありました。

しかし、近年の最低賃金の大幅な引き上げ(全国平均1,055円)に伴い、実は「週20時間」働いた時点で、月収は約9万円(年収約108万円)となり、すでに8万8,000円のラインを確実に超えるようになっています。

そのため国は、2026年10月をもって、この「月額8万8,000円以上」という金額の要件を完全に撤廃(廃止)することを決定いたしました。

つまり、これからの社会保険の基準は、金額ではなく「週20時間以上の勤務であるかどうか」となります。

「いくら稼いだか」を心配する必要はなくなり、「週に何時間シフトに入るか」という時間管理だけを意識すればよくなった、ということなのです。

整理:うちのパートさんは結局、いくらまで働ける?

頭の中を整理するために、会社の規模に合わせて、パートさんが意識すべき数字を2つのパターンにまとめました。

パターン①:すでに「51人以上の会社」の場合

  • 週20時間以上働くなら: 会社の社会保険に加入することになるため、税金が一番おトクになる「年収136万円」の壁を意識して働くことになります。
  • 週20時間未満で働くなら: 社会保険の扶養を外れないための「年収130万円」を目指して働くことになります。

パターン②:まだ適用されていない「50人以下の会社」の場合

  • 社会保険の扶養を外れない「年収130万円の壁」を意識します。

今こそ、人手不足を解消する「働き方改革」のチャンス

もしスタッフの方が「103万円を超えてしまうので休みます」とおっしゃっているとしたら、それは単に最新のルールをご存じないための「勘違い」なのです。

50人以下の会社であれば、現在は「130万円」までは扶養の範囲内で働けます。

51人以上の会社でも週20時間未満の場合であれば「130万円」までは扶養の範囲内で働けます。

これまで103万円で調整していた方に130万円までしっかり働いていただくことができれば、それだけで一人あたり年間27万円分も労働時間が増える計算になります。

例えば、そういったパートさんが3人いらっしゃれば、年間で約80万円分の労働力です。

これって、新しく求人広告を出して人を採用するのと同じくらいの労働力を、今いる見慣れたメンバーだけで確保できてしまう、ということなのです。

求人を出しても人が来ないとお悩みであれば、今いる優秀なスタッフの方に「実はね、今はルールが変わって130万円まで壁が上がったんだよ」と教えてあげる方が、はるかに確実だと思いませんか?

なお、令和10年以降は、世の中の物価の動きに合わせて税金の壁(136万円の壁)の数字も2年ごとに自動で見直す物価連動制に変わるため、これからは常に正しい情報をアップデートしていく必要があります。

おわりに:経営者が「安心のナビゲーター」に

人手不足の時代を生き抜くために経営者ができること。

それは、国の制度を難しく捉えることではなく、「正しいルールを知って、働くスタッフに安心を届けること」ではないでしょうか。

スタッフのみなさまは、お給料が減るのが怖くて、昔の「103万円の壁」という実体のない不安に怯えているかもしれません。

そこに経営者から「大丈夫、今は法律が変わってここまで働けるようになったんだよ。うちとしても、もっと力を貸してもらえると助かるんだ」と声をかけてあげたらどうでしょう。

きっと「それなら、もう少しシフトに入れます!」と、喜んで応えてくれるスタッフも多いはずです。

制度の改正を単なる負担と捉えるか、「今いる人材に生き生きと活躍してもらうチャンス」と捉えるか、それは経営者の視点ひとつで変わります。

ぜひ明日、休憩時間にでも「そういえば、年収の壁の話って知ってる?」と、スタッフのみなさまに声をかけてみてください。

きっと、社内の雰囲気が前向きに変わるきっかけになるはずです。