2026. 5. 27 放置された健診結果が会社を潰す-熟練社員の突然死を防ぎ、企業の底力を高める「受診のすすめ」

「第12回 協会けんぽ調査研究フォーラム」2026年5月13日
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/disclosure/statistics/forum/no12

もし明日、現場を支える熟練のリーダーが、脳梗塞や心筋梗塞で突然倒れたらどうなるでしょうか 。

残された現場の混乱、取引先からの信用失墜、そして何より大切な仲間を失う悲しみに、会社は耐えられますか 。

全国健康保険協会(協会けんぽ)の最新調査で、中小企業の従業員の多くが、命に関わる重い「異常値」を指摘されながら、その約8割が病院に行かず放置しているという恐ろしい実態が分かりました 。

技術の途絶や職場の士気低下は、目に見えない形で会社の底力をそぎ落とします 。

健診結果を配って終わりにするのは、今日限りでやめましょう 。

病院への受診を促すことは、会社の財産である「人」を守るための、最高の危機管理投資なのです 。

1. 病院を受診させる仕組みを作ることが、経営者の仕事

企業がこれからも安定して商売を続けていくためには、健診で「要治療(治療が必要)」とされた社員に対し、会社が直接声をかけ、早期に病院を受診させる仕組みを作ることが不可欠です 。

これまでは「個人のプライベートだから」と本人任せにしていなかったでしょうか 。

しかし、高血圧や糖尿病などの放置は、突然の欠員や仕事の能率低下に直結します 。

結果を手渡して満足するのではなく、「実際に病院で診てもらったか」を確認するまでを、毎年の経営ルールに組み込む必要があります 。

2. 病気の放置が「突然の退職・休業」を招く

なぜ、会社がここまで踏み込まなければならないのでしょうか。

理由は明確です。

重い異常値を放っておく社員は、結果として会社を辞めざるを得なくなる可能性が極めて高いからです 。

大学などの最新の追跡調査により、高血圧や糖尿病などを抱える社員は、健康な社員に比べて途中で退職してしまう割合が明らかに高いことが証明されました 。

これらの病気は「静かなる殺人者」と呼ばれ、かなり悪化するまで自覚症状がありません 。

そのため、本人は「まだ大丈夫」「忙しいからそのうちに」と過信し、受診を先延ばしにしてしまいます 。

しかし、ある日突然、人工透析や心臓の大手術が必要になれば、長期休職や退職は避けられません 。

京都支部の調査では、すぐに病院へ行くべき基準(中度以上の高血圧など)の人のうち、実際に治療を始めたのはわずか19%程度でした 。

つまり、社員の8割以上が、いつ破裂するか分からない「健康の時限爆弾」を抱えて働いているかもしれないのです 。

経営者が背中を押さなければ、従業員は病院へ行きづらいのです。

3. 受診率を劇的に上げる、3つの知恵

では、会社として具体的にどのような手を打てばよいのでしょうか。

最新の調査から、明日から実践できる3つの手がかりが示されています 。

  • 健診結果が届いてから「3ヶ月以内」に集中して声をかける
    医療機関を受診した人の約63%が、健診後3ヶ月以内に集中しています 。
    この時期を過ぎると、本人のやる気は一気に落ち込みます 。
    結果が会社に返ってきた日から3ヶ月間を「健康強化期間」と決め、現場の責任者から「もう病院行ったか?」とこまめに声をかけてもらうのが最も効果的です 。
  • 会社を挙げた「健康宣言」で、休みやすい空気を作る
    会社が「我が社は社員の健康づくりに取り組みます」と公式に宣言している事業所ほど、社員の病院受診率が明らかに高くなる傾向が見られました 。
    真面目な社員ほど「仕事を休むとみんなに迷惑がかかる」と遠慮しがちですが、社長が「健康第一」と発信することで、安心して通院できる職場に変わります 。
  • ③ 「通院のための休み」や「費用の補助」で、通いやすさの壁をなくす
    調査によると、お給料の水準や働く環境(時間の融通が利きにくいなど)によって、病気が悪化しやすい層があることが分かっています 。
    そこで会社として、再検査のために使える「有給の通院休暇」を与えたり、再検査費用を一部補助したりする具体的な支援策が有効です 。

4. 今すぐ現状の把握を

結論として、経営者の皆様が今すぐ行うべきことは、「誰が要治療で、そのうち誰がまだ病院に行っていないのか」を会社がきちんと把握することです 。

そして、結果が出てから3ヶ月以内に、会社側から積極的に受診を促がすことです。

社員が大きな病気になる前に早く病院へ行くことは、本人だけでなく、会社の経営危機を未然に抑え込むことに直結しています 。

私たち社会保険労務士は、こうした健康管理のルールを会社の「就業規則」としてきっちり整備し、現場で本当に役立つ仕組みにするお手伝いをしています 。

放置された健診結果という「マイナスの資産」を、会社の手厚い声かけによって、社員が安心して長く働ける「プラスの資産」へと変えていきましょう 。