2026. 5. 13 「同一労働同一賃金」10月再改正に向けて——最大の経営リスクは「うちは大丈夫」という思い込み
改正パートタイム・有期雇用労働法施行規則/改正雇用管理指針/改正同一労働同一賃金ガイドライン
令和8年4月28日交付、令和8年10月1日から適用
すべての経営者が「2026年10月1日」までに必ず向き合わなければならない、非常に重要、かつ「放置すると危ない」話があります。
それが「同一労働同一賃金」のルール変更(指針の改正)です。
「そんなの、数年前に対応済み!」と思われたかもしれません。
しかし、今回の改正は、これまでの「なんとなくの対応」が通用しなくなる、いわば「本番」のアップデートなのです。
ベテラン経営者の皆様が、今すぐ取り組むべき「守りの対策」と、これからの時代を生き抜く「攻めの経営」について、解説します。
1. なぜ「今」また改正されるのか? —— 司法の厳しい審判
そもそも「同一労働同一賃金」とは、「同じ仕事をしているのであれば、正社員と非正規社員(パート・アルバイト・契約社員)の間で、合理的な理由なく待遇に差をつけてはならない」というルールです。
法律自体は数年前から施行されていますが、実態として「結局、どこまで差をつけていいのか?」というグレーゾーンが非常に多かった。
今回の改正は、この5年間の最高裁判例の結果を、厚生労働省が「指針(ガイドライン)」として正式に明文化したものです。
つまり、「裁判所がダメだと言ったことは、全国どの企業でもダメですよ」という最終通告が、2026年10月からの運用に反映されるということです。
2. 経営者が震える「3つの具体的変更点」
今回の改正で、特に中小企業が「言い逃れ」できなくなるポイントは以下の3点です。
① 「家族手当・住宅手当」へのメス
これまで「家族手当や住宅手当は、正社員の生活を支えるためのものだから、パートには出さなくていい」と考えていた会社は多いはずです。
しかし、今回の改正では以下のように明記されました。
- 家族手当: 契約更新を繰り返しており、今後も長く働くことが見込まれるパート社員がいれば、正社員と同様の趣旨で支給しなければなりません。
- 住宅手当: 転勤の有無などが待遇差の理由として語られますが、実態として「正社員も転勤がない」のであれば、非正規社員だけに支給しないのは「不合理」とみなされます。「パートだから一律なし」という規定は、もはや通用しません。
② 「正社員確保のため」という魔法の言葉の終焉
これまで、賞与や退職金の差について「優秀な正社員を確保・育成するために必要だ」という説明(正社員人材確保論)が、ある程度認められてきました。
しかし、今後は「有期雇用だから」「定年後再雇用だから」という属性だけを理由にした一括の格差は認められません。
「その手当、その賞与は、一体何のために払っているのか?」という一つひとつの趣旨に立ち返り、合理的な説明が求められるようになります。
③ 「説明義務」の劇的な強化
これが最も実務に影響します。
2026年10月以降に雇い入れるすべてのパート・有期雇用労働者に対し、「正社員との待遇差について、あなたには説明を求める権利があります」と書面で明記することが義務化されます。
つまり、会社側から「疑問があれば聞いてくださいね」と手の内を明かさなければならなくなるのです。
従業員がその記載を見て「じゃあ、私の時給が正社員より低い理由を教えてください」と聞いてきた際、あなたは即座に、論理的に答えられますか?
3. 中小企業が陥る「3つの落とし穴」
ベテラン経営者ほど、これまでの「当たり前」がリスクになります。
- 「ずっとこうしてきたから」という慣習 :「先代の時から、皆勤手当は正社員だけだった」——。これは理由になりません。
なぜパートには皆勤を求めないのか、あるいは求めているのになぜ払わないのか。
説明できない慣習は、すべて「不合理」と判定されます。
- 書類の「使い回し」 :古い労働条件通知書を使い続けていると、それだけで「説明義務違反」という法令違反になります。
10月までに書式を刷新しなければなりません。
- 「罰則がないから後回し」という油断 :確かにこの改正で即座に逮捕されるような刑事罰はありません。
しかし、労働局からの是正勧告を受けたり、何より「不当な格差だ」として従業員から過去数年分に遡って民事訴訟による損害賠償請求を起こされるリスクは、中小企業にとって致命的な金額になり得ます。
4. 今すぐやるべき「5つの対策チェックリスト」
混乱を避けるため、まずは以下の5つのステップで自社の現状を確認しましょう。
| チェックのポイント | |
|---|---|
| 1. 手当の棚卸し | 正社員だけに払っている手当(家族・住宅・皆勤・無事故等)をすべて書き出す |
| 2. 理由の言語化 | その手当をパートに払わない理由を「仕事内容」「責任の重さ」「配置転換の有無」で説明できるか検討する |
| 3. 書式の更新準備 | 労働条件通知書に「説明を求める権利」の文言を追加する準備を始める |
| 4. 規定の照合 | 就業規則(パート規程)が形骸化していないか、実態とズレがないか確認する |
| 5. 助成金の検討 | 「キャリアアップ助成金」などを活用し、コストを抑えつつ賃金改善ができないか調べる |
5. 結論:この改正を「ピンチ」ではなく「最強の採用戦略」に変える
ここまで厳しい話をしてきましたが、これは会社を成長させるチャンスであるということです。
今、日本中で深刻な人手不足が続いています。
そんな中で、「うちは法改正にいち早く対応し、パートさんも正社員も納得感を持って働ける制度を作っています」と胸を張って言える会社には、必ず良い人材が集まります。
逆に、不透明な待遇差を放置している会社からは、優秀な人から順番に辞めていきます。
今の時代、「従業員から『この会社はちゃんとしている』と信頼されること」こそが、最もコストパフォーマンスの良い人材戦略なのです。
「同一労働同一賃金」への対応は、単なる事務作業ではありません。
会社のこれからの5年、10年を支える「チーム作り」の再構築です。
施行まであとわずか。
一人で悩まず、ぜひ私たち社労士を頼ってください。
御社の実情に合わせ、無理のない、しかし「負けない」体制づくりを一緒に伴走させていただきます。
会社を守り、従業員を活かす。
そのための第一歩を、今日から踏み出しましょう。

【主な根拠・参考資料】
- パートタイム・有期雇用労働法 第8条・第9条・第14条
- 令和8年厚生労働省令第87号・告示第202号・第203号(2026年4月28日公布)
- 同一労働同一賃金ガイドライン(厚労省告示)
- 最高裁判例(日本郵便、メトロコマース、大阪医科薬科大学 各事件)


