2026. 4. 22 「主治医が復職可と言えば戻すべき?」中小企業経営者が知っておくべきメンタル休職・復職の最新判例と実務対応
ホープネット事件(東京地判令5.4.10)
協成事件(東京地判令6.5.28)
東京都葬祭業協同組合事件(東京地判令6.9.25)
従業員から「主治医が復職可能と診断したので、来月から戻りたい」と言われた際、経営者としてそのまま受け入れてよいのか悩むケースは少なくありません。
安易な復職判断は、再発による現場の混乱や、後の法的紛争(地位確認請求など)を招く恐れがあります。
今回は、最新の3つの判例を紐解き、中小企業の経営者が取るべき「正しい復職・退職判断」のプロセス解説します。
復職判断の本質と経営者の責務
メンタルヘルス不調による休職期間が満了する際、経営者が最も重視すべき点は、「主治医の診断書を鵜呑みにせず、会社側がその根拠の妥当性を客観的に吟味すること」です。
復職の基準は、単に医学的に病状が安定(寛解)したことではありません。
判例上は、「休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に回復すること、あるいは復職後ほどなくその程度の回復が見込まれること」(債務の本旨に従った履行)が要件とされています。
中小企業においては、代替となる軽易な業務が限られていることも多いため、この「通常業務の遂行可能性」を慎重に判定することが、経営上のリスク管理となります。
なぜ「診断書」だけで決めてはいけないのか
主治医と産業医・会社指定医には、それぞれ判断における特性と「死角」があるためです。
- 主治医の限界: 主治医は患者の治療を任務としており、職場の実情や具体的な業務負荷については精通していません 。
そのため、復職後の配慮の必要性を十分に検討しないまま、本人の希望に沿った診断を出す傾向があります 。 - 産業医・指定医の視点: 復職後の就労内容を把握した上で判断できる立場にあります 。
ただし、治療の経過(症状の推移や服薬内容の変化)を詳細に把握していない場合、その判断の根拠が薄弱とみなされるリスクもあります 。 - 立証責任: 復職が可能であることの立証責任は、原則として従業員側にあります 。
従業員が十分な情報提供(主治医への照会同意など)に協力しない場合、会社は復職を認めない正当な理由を得ることができます。
3つの判例に見る判断の分かれ道
最近の裁判例を比較すると、会社側の対応の是非が明確になります。
① 生活実態を詳細に確認したケース(ホープネット事件:東京地判令5.4.10)
主治医が「復職可」としたものの、産業医が面談を通じて「生活リズムの改善や外出訓練が行われていない」「薬効の強い薬剤を多種類服用している」事実を確認しました 。
結果、裁判所は主治医の診断を否定し、休職満了による退職を有効と認めました 。
② 情報提供への協力を求めたケース(協成事件:東京地判令6.5.28)
会社が産業医を通じて主治医に診療情報を照会しようとした際、従業員が同意を拒否しました 。
裁判所は、正確な情報を得るための照会は不合理ではなく、協力義務を怠った従業員の復職申し入れを認めず、退職を有効と判断しました 。
③ 診断の根拠が不十分とされたケース(東京都葬祭業協同組合事件:東京地判令6.9.25)
会社指定医が「一時的な回復に過ぎない」と診断し、会社が退職扱いとしました 。
しかし、指定医が治療経過を詳細に聴取しておらず、会社も主治医に照会を行わなかったため、根拠不足として退職が無効(雇用継続)とされました 。
中小企業が取るべき具体的対応策
トラブルを防ぐために、経営者は以下のプロセスを社内に整備しましょう。
1. 就業規則の具体化: 復職の要件を「通常業務の遂行」と明確にし、会社指定医の受診や診療情報の提供協力義務を明記しておきます。
2. 主治医への診療情報提供依頼: 「復職可」の診断書が出た際は、本人の同意を得て、主治医に対して具体的な業務負荷(残業時間、対人折衝の有無など)を伝えた上で、それに対する適応性を書面で照会します。
3. 多角的な事実確認(生活記録表など): 本人の主観だけでなく、起床・就寝時間や活動内容を記録した「生活記録表」を提出させ、復職に適した生活リズムが一定期間確立されているかを客観的に確認します。
4. 産業医・指定医との連携: 会社側の医師に意見を求める際は、診断結果の「根拠」を深掘りし、主治医の意見と異なる場合はその妥当性を十分に吟味した上で最終判断を下します 。
結び
メンタル休職からの復職判断は、一歩間違えれば「解雇権の濫用」や「安全配慮義務違反」に問われるデリケートな問題です。
感情的な判断を避け、客観的な証拠と適切な手続きを積み重ねることが、会社と従業員の双方を守ることにつながります。



